「幸せへのまわり道」(映画感想)
トム・ハンクスが、アメリカで1968年から2001年にわたって放送された長寿子ども向け番組の司会者フレッド・ロジャースに扮し、アカデミー助演男優賞にノミネートされたヒューマンドラマ。雑誌「エスクァイア」に掲載された新聞記者ロイド・ボーゲルによる記事の映画化で、ボーゲル役を「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」でもハンクスと共演したマシュー・リスが演じた。雑誌記者として華々しいキャリアを築いてきたロイド・ボーゲルは、姉の結婚式に招待され、そこで長らく絶縁していた父ジェリーと再会する。家庭を顧みず自分たち姉弟を捨てた父を、ロイドはいまだ許せずにいた。数日後、仕事で子ども向け番組の司会者として人気のフレッド・ロジャースを取材することになったロイド。フレッドは、会って間もないロイドが抱えている家族の問題や心のわだかまりを見抜き、ロイドもそんなフレッドの不思議な人柄にひかれていく。やがて2人は公私ともに交流を深めていくが……。監督は「ある女流作家の罪と罰」「ミニー・ゲッツの秘密」のマリエル・ヘラー。
(「映画.com」より)
全米とカナダでは「Mister Rogers' Neighborhood」という子供向けのTV番組は有名なんだそうです。セサミストリートくらいしか知らなかったので、ピンとこなかったんですけど。
この番組の司会がフレッド・ロジャースという優しそうなおじさん。そして、ロジャース氏を取材することになった若いジャーナリスト(とその家族)の物語。
ひっそり地味に公開されて、トム・ハンクス主演だし気にはなってたけど、まあ時間があったら観に行こうかな、くらいの感じでした。
でも、映画評論家の添野知世氏がTwitterで大絶賛されてて、これは行かねば!と塚口サンサン劇場へ。
ありがとう添野さん!ものすごく良かった!
見終わってから速攻、フレッド・ロジャース本人を検索しました。
T.ハンクスとは顔はあんまり似てないけど、動きや喋り方はそっくり。
ジャーナリストのロイドの苦しみと怒りを知ったロジャース氏は、彼に穏やかに寄り添い、カウンセリングのようなやり取りが生まれます。
はじめのうちはそんなロジャース氏にイラついたり冷笑したりするロイドですが、抱えていた負の感情に耐え切れず、拗らせた態度をとりながらもいつの間にかロジャースに近づいていく…
ロジャースは、子どもから大人にまで好かれる善き有名人で、「聖人」と呼ばれてるけど、妻曰く
「聖人と呼ばれるのはあまり好きじゃないわ。彼は聖人でも何でもない。短気だしね。感情を抑制する訓練と努力の賜物なのよ。それを何年も続けてきたの。」
そのやり方とは、水泳をする、ピアノを思い切り弾いて、低い音をガガガーン!と鳴らす、これまで出会った愛してくれた人を想い1分間沈黙する、などなど…
単なるアンガーマネジメントとしての技法ではなく、それによって人生に意味を見出せる展開になるのが素晴らしい。
自分に対して酷いふるまいをした人を赦し、相手を憎んでいた過去の自分を赦すことで、救済される魂がある。
T.ハンクス演じるロジャース氏は、決して大声を出したり激高したりしない。ロイドから、2人の息子さんは父親が有名人だから生きづらかったでしょうね的な質問をされても
「気遣ってくれてありがとう」
「ありがとう。正しい見方をしてくれて」
と返す。
この時の表情がもう!
穏やかでロイドを責めたり皮肉に聞こえるようなニュアンスは全然ない。
なのに、哀れみや悲しみが奥の方にちゃんとある。
ロジャース氏は、ただの「いいひと」ではなく、努力してそういう人になっている。
だけどそう努力しているのは、単にお金や名声の為ではないようで。
彼は神学校を出た牧師でもあったということで、きっと、真理を探求して善き人生を送るために、そして何より、TVを観てくれる子どもたちの規範となるように、自分を律したのだと思います。
主人公が子供番組の司会者ということで、ジオラマのセットやパペット達が存在感を出してくれてます。パペットのダニエルというくまちゃん可愛い!
NYの地下鉄内で、ロジャース氏を見た子どもが番組のテーマソングを歌い出し、最後は大合唱になったり、
それと対比して、別の場面では、2人が向き合うレストランで、1分間沈黙しよう、というロジャース氏からロイドへの提案に、ざわついていた店内が次第に静まっていったり、
ロジャース氏の静かな存在が、いつの間にかその周辺にさざ波のように広がっていく描写が温かい…
観て良かった!
T.ハンクスは若い頃の作品がすごく好きです。今とは全然違うので見返すとびっくりしますけど!
「ビッグ」とか「ドラグネット」とかで、やんちゃで可愛いトムさんが観られます!
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