「一度きりの大泉の話」(読書感想)

萩尾望都先生のこの本が出た時、びっくりして、早く読みたい早く早く…!と思っていたんですが、他に読む本がたまっていて。

そうこうしている間に、ネットがざわつき始めて。

ああ、やっぱりそうなんだ…タイトルからして、衝撃告白作の匂いがぷんぷんするし。と思い、読み始めたら案の定!な作品でした。


私は萩尾望都先生や竹宮恵子先生の作品をリアルタイムで読んではいなくて(世代的ににちょっと間に合ってない)。なので大人になってから、名作を読む、という感じで「風と木の歌」を一気読みしました。

「ベルばら」とか「摩利と新吾」とかも同じ。持っているのは愛蔵版です。


2016年に竹宮先生の「少年の名はジルベール」が出て、そこで女性版トキワ荘的な「大泉サロン」の内情を知りました。竹宮先生と萩尾先生、そこに第3の存在、というかむしろキーパーソンと言える増山さんという女性を中心にアシスタント志望やファンが集った、少女漫画の花園のような場所。

竹宮先生は、萩尾先生との関係を、主に自分の嫉妬心から壊してしまい、そのことを懺悔するような文章を書いています。ですが全体としては、少女漫画で革命を起こそう!と気炎を揚げていた時の話や、「風木」を連載させてもらうまでの紆余曲折が印象に残りました。


その翌年に、木原敏江先生のムック本「総特集 木原敏江 エレガンスの女王」が出て、ここで何と、木原先生と萩尾先生、そして青木保子先生(「エロイカより愛をこめて」!)という超豪華な鼎談がありまして。

ですが、ここでは竹宮先生の名は一切出てきません。

同年代を駆け抜けた人達なのに、大泉サロンも竹宮恵子も出てこない。それはもう不自然なほどに。


そしてこの「一度きりの大泉の話」です。

この本には、2016年に竹宮先生の本が出てから、自分のもとに取材やドラマ化の話が繰り返し来て、落ち着いて仕事ができないので、今回1度だけお話します、だからもうこれ以上は勘弁して下さい、という序章の後、萩尾先生の当時の壮絶な記憶が綴られています。

とにかく、竹宮先生と萩尾先生の表現が全然違う。映画「羅生門」じゃん…って思う。

正直、自叙伝というか当時の回想録としては、竹宮先生の文章の方が軽快で熱くて読みやすい。

だけど、萩尾先生の文章は(インタビューに答えた後ご自分で手を入れるという執筆方法だったようですが)、何というか…竹宮先生から受けた仕打ちをずっと忘れられず苦しみ続けてきた慟哭が行間から立ち昇ってくるような、とても重苦しくて、でもその重さがストレートにこちらに響いてくる。

どちらかが嘘をついている、というような単純な話ではないんでしょうけど、それにしても2年間同居して切磋琢磨して、今ものすごく偉大な存在になっている2人が、50年近く音信不通だったとは!そしてそれは今も続いていて。

さらに驚いたのは、萩尾先生は、竹宮先生に拒絶された衝撃から、風木を始め一切の作品を読んでいないそうです。そんなことできるんか…(×_×;)


なので、萩尾先生は「少年の名はジルベール」も読んでいない。竹宮先生から献本されたそうですが、マネージャーの城さん(この方も元漫画家で大泉サロン時代からのお付き合い、しかも竹宮先生のアシスタントなどもしていた)が読んで、送り返した、と書いてあります。とにかく萩尾先生は徹底して竹宮先生と関わることを避けている。

なのでこの「一度きりの大泉の話」は、ジルベールに対する反論やアンサーではなく、本当に萩尾先生自身の体験と記憶を綴っているのだと思います。


そして、竹宮先生が、当時のことを、熱くて蒼い青春時代の思い出としてさらりと描写した、萩尾先生との別れのシーンが、萩尾先生サイドからは、未だに氷解しない苦しみの塊として描かれています。これはきつい…きついよ…


「一度きりの~」読了後、3年ぶりくらいに「ジルベール」を読み直しました。

竹宮先生が触れていなかった、竹宮先生から萩尾先生への「手紙」の存在が、「一度きりの~」では明らかにされている。

竹宮先生が、大泉サロンの間取り図をイラストで描いていたり、そこでの生活の様子も生き生きと描写しているのに、萩尾先生は大泉サロンなんて誰が名付けたの?というスタンス。

他にも食い違ったり真逆だったりする点はいっぱいあるんだけど、前述のように、後から本を書いた萩尾先生には、竹宮先生に対して歩み寄る気持ちが全くない、とにかくもう関わりたくない(そしてその理由はきちんと書いてある)から、これは竹宮先生にとっても、大変に厳しい本だろうなと思いました。

この2冊を読んで、さっきも書いたけど、黒澤明の「羅生門」を思い出しました。

真相は藪の中…というか、それぞれの記憶の乖離が50年の間に更に熟成されてる感じ。


それから、この2人の関係性ではなく個々のキャラとしては「アマデウス」が浮かんでしまった…萩尾先生がアマデウスで、竹宮先生がサリエリ(もちろん、竹宮先生は萩尾先生を故意に陥れたりはしてませんが!)。


漫画の世界では大きな仕事を成し遂げた2人ですが、1人の人間として、あまりに大きな傷を負われたと思います。

萩尾望都先生の短編「半身」がとても好きです。本当の自分はどっち?ってなる…

ゆとりらYOGA

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