「何はなくとも三木のり平~父の背中越しに見た戦後東京喜劇~」(読書感想)

三木のり平(1924~1999)といえば、私の年代は「桃屋」のアニメーションと声の印象が物凄く強いです。というかきっかけがそれで、一緒にTVを見てた母が「このCM、本人にそっくりだよ」と言って、古い映画をTVで観た時「ホントだ!」と思ったのを覚えていて、それが多分昭和40年代。

10代の頃は、森光子の舞台「放浪記」の新聞広告で、「演出・三木のり平」とあるのを見て、えーあの桃屋のおじさんが舞台の演出とかするの?と思ったり、晩年は別役実の戯曲を1人で上演すると知って、え?あの桃屋の?と思ったり、まあとにかく桃屋のひと。

なので、舞台人、喜劇役者としての全盛期を私は知らないのですが、この本は物凄く面白くて一気に読んでしまいました。

これは、息子の小林のり一氏が父の当時の仕事を、当時の記憶や関連資料をひいてインタビューに答える形の評伝です。
なので、プライベートな暴露話などは全然なく、ひたすら仕事の記録。それも大半は舞台(東京宝塚劇場や芸術座)で、終盤に社長シリーズ等の映画や、桃屋のCMの話が出てきます。

この舞台が、歌舞伎や落語を底本にした脚本で、あらすじや当時のパンフレットの挨拶文を読むだけでめちゃくちゃ面白い。いわゆる商業演劇で、幕間にお弁当を食べる時間がしっかりあるようなタイプの演劇ですが、三木のり平が連日大爆笑をとり観客を沸かせていた様子が細かく描写されています。

私が物心ついた時は、三木のり平はTVドラマのちょっとした脇役(だけど大御所)で見る程度。あとはただただ桃屋のひと、だったので、この人が座長公演で時代劇をやっていたり、演出と主演を兼ねていたり、あとこの本読むと「キグレ大サーカス」の演出までやってる!と知り、何と多才な人だったのか、と驚きました。

そしてこの本にはものすごい「付録」がついていまして。

それは、1955年(昭和30年!)の「東京喜劇まつり」での出し物「最後の伝令」と、1969年明治座での「めおと太鼓」の上演録音です!

QRコードを読み込んで聴けるようになっていて、映像はなくても、この時代のクリアな音源が残っていることが驚き(@o@ !!

特に「めおと太鼓」は落語や歌舞伎の「文七元結」のお話で、古今亭志ん朝が文七を演じています。若くて生真面目な口調が素晴らしくて、もちろんのり平の長兵衛役も、舞台での動きが分かるような面白い台詞回しで、本当に落語を聴くみたいに舞台音声をずーっと聴けました(抜粋ですがそれでも1時間以上の音声です)。

↑志ん朝はこの舞台から、自分の「文七元結」を作ったと話しています。


1990年代になると、別役実の不条理劇に出演していて、その時はかなり話題になりました。別役好きだけど、当時は観に行こうとまでは思わなかった…2本出て、3本目にとりかかる前に亡くなったそうです。

今生きていたら96歳、なので森繁くらい長生きしてくれてたらもっと違う作品も観られただろうなあと思います。

気難しくて不愛想で、でも、役者仲間からも作家や演出家からも絶大な信頼を集めていた稀有な存在だったそうです。

息子であるのり一氏の、淡々とした語りぶりに魅かれる1冊。

ゆとりらYOGA

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