「アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台」(映画感想)
刑務所に服役している人達がサミュエル・ベケットの「ゴドーを待ちながら」を演じる、という、このシチュエーションだけで、絶対面白いやつじゃん…!と思い観てきました。
「ラスト20分。感動で、あなたはもう席を立てない!」
というコピーを見てしまい、これってネタバレだよなあ、と思いながら観ていたのですが、想像してたのと全然違う方向の感動だった。うーん、やられた!
ラスト20分よりだいぶ前…ほぼ中盤に、囚人達が外部の舞台で「ゴドーを待ちながら」を演じるシーンがあり、かなり長尺で舞台劇が描かれます。
出演者のみすぼらしい服装(浮浪者の役なので)、山高帽、傘や太いロープ…そして舞台にどっしりと立つ1本の大木。
この、正統派ゴドーの舞台シーンで思わず涙が出ました。
1980年代の小劇場ブームの時、第三舞台の「朝日のような夕日をつれて」を観ました。この作品の中はゴドーをモチーフにしていて、オリジナルでは出てこないゴドーさんが出てきたりするのでした。
意味のない言葉遊びのような台詞のやり取りと、妙に退廃的な空気がとても知的に思えて、よく分からないまま、この戯曲が大好きになりました。
この映画では、囚人達がゴドーを待つ男たちを演じる。
囚人達も出所の日をひたすら待つ。
…そういう重ね合わせも面白いんだけど、本当の主人公は、彼らを演出する売れない俳優。
なぜ彼が囚人たちにゴドーを演じさせようとするのか?なぜ刑務所の所長や官僚までも説得して外部公演を試みるのか?
彼の心の内側が明かされるのが、ラスト20分…という展開です。
人間関係は割とさらりと描かれていて、ここぞ!という舞台シーンをがっちり見せてくれるのが凄く良かった。
単純な更生の物語、では全然ありません。しかも実話だって!この後がめちゃくちゃ気になります。調べても出てこない。気になる・・・。
エンディングがニーナ・シモンというのも素敵でした。複雑なラストに相応しいな、と。
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